「新製品のプラスチック部品を作ることになったけれど、成形工場から言われる専門用語がよくわからない……」
「マスターバッチや着色ペレットなど、色をつける方法がいくつかあるみたいだけど、どれを選べばいいの?」
「コストダウンのために粉砕材を提案されたけれど、品質に問題はない?」
プラスチック製品の企画や設計、調達に携わったばかりの方にとって、射出成形の現場で使われる「材料の専門用語」は最初の壁になりがちです。
最適な選択ができなければ、想定以上のコストがかかってしまったり、希望通りの強度や外観が得られなかったりするリスクがあります。
そこでこの記事では、射出成形で使われるプラスチック材料の基本(ペレット・各種着色材・粉砕材)について、初心者にもわかりやすく解説します。
この記事を読めば、各材料の特徴やメリット・デメリット、そして「自分の作りたい製品にはどの材料を選ぶべきか」が明確になり、成形工場との打ち合わせもスムーズに進むようになりますよ。
射出成形で使われるプラスチック材料の基本「ペレット」とは?
射出成形の工場に行くと、必ず目にするのが米粒のようなプラスチックの粒です。
まずは、すべての基本となる「ペレット」と、現場で混同しやすい用語の定義について解説します。
バージン材とナチュラル材の正しい定義
現場ではよく「バージン材」や「ナチュラル材」という言葉が飛び交いますが、これらは意味が異なります。
- バージン材: 一度も成形加工(熱履歴)を受けていない、メーカーから出荷されたままの「新品の材料」を指します。あらかじめ色がついている新品のペレットも「バージン材」に含まれます。
- ナチュラル材: 顔料や染料が一切入っていない、プラスチック(樹脂)本来の無着色の状態を指します。
「ナチュラル材=白色か半透明」と思われがちですが、実際は樹脂の種類によって全く異なります。
たとえば、PC(ポリカーボネート)やアクリル(PMMA)のように完全に透明なものもあれば、PP(ポリプロピレン)のように乳白色のもの、ABSのようにアイボリー(クリーム色)のものなど様々です。
なぜペレット状(粒状)になっているのか?
では、なぜわざわざ粒状にしているのでしょうか?それには、射出成形機の仕組みに関わる明確な理由があります。
- 機械への供給をスムーズにするため: 成形機の「ホッパー」と呼ばれる投入口から、材料を一定量ずつ途切れることなく滑り落とすのに最適な形状だからです。
- 均一に溶かすため: 加熱されるシリンダー内で、熱を均等に伝え、ムラなくドロドロに溶かす(可塑化する)ために、粒の大きさが揃っている必要があります。
小麦粉のような粉状だと自重で落下しにくく詰まりの原因になり、大きすぎると溶けムラができるため、ペレットという形状が最も適しているのです。
プラスチックに色をつける!着色材料の種類と違い
プラスチック製品の魅力のひとつは、自由なカラーバリエーションです。
しかし、色をつける(着色する)方法にはいくつか種類があり、それぞれコストや品質、管理の難易度(成形性)が変わってきます。
着色ペレット(カラーペレット)の特徴とメリット・デメリット
着色ペレットは、材料メーカーの段階で、あらかじめ指定した色に顔料が均一に練り込まれているペレットのことです。
カルピスで例えると、コンビニなどで売っているそのまま飲めるカルピスのイメージです。
- メリット: 色が完全に均一に混ざっているため、色ムラ(ウェルドラインでの色割れなど)がほとんど発生せず、非常に高品質な成形品が作れます。現場での色ブレも起きません。
- デメリット: 材料自体の単価が高くなります。また、材料メーカーに特注で作ってもらうため、「最低1トンから」といった大きな最低発注ロットが必要になり、小ロット生産には向きません。
マスターバッチの特徴とメリット・デメリット
マスターバッチは、顔料を高濃度で練り込んだ「着色専用のペレット」です。これを、ベースとなる無着色の「ナチュラル材」に、数%程度の割合で混ぜて(薄めて)使用します。
カルピスの原液のイメージです。水で薄めて好きな濃度にできます。
- メリット: 着色ペレットに比べて小ロットから注文可能で、トータルコストを抑えやすいです。色ムラも比較的少なく、現在の射出成形で最も主流な着色方法となっています。
- デメリット: 混ざり具合は成形機のスクリュー形状や設定(背圧など)に依存するため、極端にシビアな色調が求められる製品や、透明感のある繊細な色合いを出すのはやや難しい場合があります。
ドライカラー(粉末顔料)の特徴とメリット・デメリット
ドライカラーは、粉末状の顔料です。ナチュラル材のペレットに展着剤(オイルなど)をまぶし、そこにこの粉末を付着させて色をつけます。
- メリット: 着色材料としては最も安価です。在庫スペースも取らず、極小ロットの生産にも対応できます。
- デメリット: 粉末のためミリグラム単位の厳密な計量が必要で、わずかな誤差が製品の色ブレ(ロットごとの色の違い)に直結します。また、粉末が飛散しやすいためコンタミ(他の製品への異物混入や色移り)のリスクが高く、成形機の清掃(パージ作業)が極めて大変です。そのため、製造現場では嫌がられる傾向にあります。
【比較表】ロット数やコストに合わせた着色手法の選び方
それぞれの特徴を踏まえ、比較表にまとめました。
| 着色手法 | 色ブレの少なさ(品質) | 材料コスト | 現場での扱いやすさ | おすすめの用途 |
| 着色ペレット | ◎ 極めて安定している | △ 高い | ◎ 混ぜる手間がなく楽 | 自動車部品、高級家電など、厳しい品質基準・大量生産 |
| マスターバッチ | 〇 安定している | 〇 中程度 | 〇 配合比率の管理が必要 | 一般的な日用品、雑貨、ケース類など、バランス重視 |
| ドライカラー | △ 色ブレしやすい | ◎ 安い | × 飛散しやすく清掃が大変 | コスト最優先の部品、外観を気にしない内部パーツ |
多くの場合は、品質・コスト・現場の運用面のバランスが良い「マスターバッチ」が選ばれます。
コスト削減・環境配慮で活躍する「粉砕材」とは?
成形工場との打ち合わせでよく耳にするのが「粉砕材(リプロ材)」です。
コストダウンの提案として挙げられることが多いですが、設計上のリスクを正しく理解しておく必要があります。
粉砕材(スプルー・ランナーの再利用)のメリット
射出成形では、製品部分以外にも、プラスチックの通り道となる「スプルー」や「ランナー」と呼ばれる不要な部分が必ず固まって出てきます。
これらや、成形不良になった製品を、専用の機械で細かく砕いたものを粉砕材(リプロ材)と呼びます。
最大のメリットは材料ロスの削減によるコストダウンです。
捨てるはずだったものを再利用するため、材料費を大きく抑えることができます。
また、環境負荷の低減(SDGs)にも貢献します。
粉砕材を混ぜる際のリスクと要求仕様による制限
コストが下がるなら全部粉砕材で作ればいいのでは?と思うかもしれませんが、製品の「設計要求」によっては使用できない、あるいは厳格に制限されるケースがあります。
プラスチックは、熱を加えて溶かすたびに分子の鎖が切れ、徐々に熱劣化していく性質を持っています。
そのため、粉砕材を多く使いすぎると、以下のような問題が発生します。
- 強度の低下: 耐衝撃性が落ち、割れやすくなります。
- 寸法の変化: 収縮率が変わり、成形収縮による「ヒケ」や「反り」が出やすくなります。
【設計者の視点】用途や規格による制限
一般的な雑貨などでは、新品のバージン材に粉砕材を20%〜30%程度混ぜて使用するのが一般的です。しかし、以下のようなシビアな製品では、図面や仕様書で厳しく制限されます。
- 防水・精密部品(粉砕材0%): パッキンとの密着面がある防水ケースや、高い寸法精度が求められる機構部品では、熱劣化による寸法変化を嫌い「粉砕材の使用不可(バージン材100%)」と指定します。
- 安全規格(UL規格など)の制限: 製品が難燃性などの安全規格(UL規格)を取得している場合、規格そのもので「粉砕材の混入は最大25%まで」などと上限が厳格にルール化されており、これを超えると規格違反になります。
粉砕材の使用を検討する際は、単にコストだけで決めず、製品に求められる機能(強度・気密性・規格)を考慮して工場とすり合わせる必要があります。
【まとめ】射出成形の材料選びは「用途・ロット・コスト」で決めよう
この記事では、射出成形で使われる基本的な材料について、実務的な視点を交えて解説しました。
- ペレット: 一度も熱をかけていない新品が「バージン材」。着色剤が入っていない樹脂本来の状態が「ナチュラル材」。
- 着色方法: 品質最重視なら「着色ペレット」、現在の主流でバランスが良いのは「マスターバッチ」。コストは安いが色ブレやコンタミリスクが高いのが「ドライカラー」。
- 粉砕材: コスト削減に有効だが、劣化による強度低下や寸法変化のリスクがある。防水部品や安全規格品では「使用不可」や「上限値」が厳格に決まっている。
材料選びに「絶対の正解」はありません。
「その製品の図面要求(強度・防水性・規格など)はどうなっているか」「生産ロットはどのくらいか」「予算はいくらか」という全体のバランスを見て決定することが大切です。
今回の正確な基礎知識をベースに、自社の製品に必要なスペックを成形工場にしっかりと伝えれば、トラブルのない最適な材料選定ができるはずです。
ぜひ、納得のいく製品づくりに役立ててください。



