近年、製造業において「脱炭素」や「SDGs」への取り組みは避けて通れない重要課題となっています。特にプラスチックを扱う樹脂成形品の分野では、従来の化石由来プラスチックからの脱却や、環境負荷を低減する新たなアプローチが求められています。
しかし、いざ自社製品の環境対応を進めようとしても、
「バイオマス樹脂やリサイクル材など、選択肢が多すぎてどれを選べばいいか分からない」
「環境対応素材は強度が落ちそうだし、既存の金型が流用できるのか不安」
とお悩みの設計・開発担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、樹脂成形品における環境対応の全体像をはじめ、注目の高まるバイオ樹脂やリサイクル材の選び方、設計現場で直面する「品質や金型の課題」への対策、そして具体的な企業事例までを分かりやすく総まとめとして解説します。
1. なぜ今、樹脂成形品に「環境対応」が求められているのか?
従来のプラスチック成形から環境配慮型へのシフトが加速している背景には、単なるイメージアップにとどまらない、強力な外的要因とビジネス上のメリットが存在します。
脱炭素社会とSDGsに向けた世界的な動向
世界的な「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、プラスチックに対する規制は年々厳格化しています。
日本国内でも2022年4月に「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」が施行され、製品の設計段階からの環境配慮や再生資源の利用促進が求められるようになりました。
また、欧州を中心に「製品のライフサイクル全体(材料調達から廃棄まで)におけるCO2排出量(LCA:ライフサイクルアセスメント)」の開示や削減を求める動きが標準化しつつあり、環境対応が遅れることは「市場からの退場」を意味する時代が到来しています。
また、中国では飲食関連での非分解性プラスチックストローの使用禁止や、ポリ袋や発泡プラ容器の製造、販売が規制されるなど世界的にプラスチック製品の規制は厳しくなってきています。
企業が樹脂の環境対応に取り組む3つのメリット
企業が樹脂成形品の環境対応を早期に進めることには、以下のようなメリットがあります。
- 競合他社との差別化と新規受注の獲得 サプライチェーン全体でのグリーン調達が進む中、環境対応した樹脂成形品を提案できることは強力なアドバンテージになります。
- 企業ブランドおよびESG評価の向上 環境配慮への積極的な姿勢は、顧客や投資家からの信頼(ESG評価)を高めます。
- 将来的な法規制リスクの回避 今後さらに厳しくなると予想される規制強化に対し、先んじて技術的基盤を構築しておくことで経営リスクを抑えられます。
2. 樹脂成形品の環境対応アプローチまとめ(3つの手法)
樹脂成形品の環境対応と一口に言っても、アプローチは一つではありません。
大きく分けて以下の3つの手法が存在します。
手法1. 環境配慮型樹脂(代替素材)への切り替え
従来の石油由来プラスチックを、植物などを原料とする「バイオマスプラスチック」や、微生物によって分解される「生分解性プラスチック」へと切り替える手法です。

手法2. リサイクル樹脂(再生材)の活用
工場内の端材や、市場から回収された使用済みプラスチックを再資源化した「再生樹脂(リサイクル材料)」を導入する手法です。
廃棄物の削減と資源の循環に直接貢献します。
手法3. 減容化(薄肉化・発泡成形など)による使用量削減
工法や設計の工夫によって、製品1個あたりに使用するプラスチックの絶対量を減らすアプローチです。
CAE解析を駆使した「薄肉化設計」や、内部に微細な気泡を持たせて軽量化する「発泡成形」などがあります。
また、近年プラスチック関連の展示会などでよく見るのが、バイオマスフィラーを添加した「コンポジット材(複合材)」です。
玉子の殻や植物(セルロースナノファイバー、竹粉末)、海水から抽出したミネラル成分などを混ぜた樹脂材料を使って、プラスチック使用量を削減します。
3. 主な環境配慮型樹脂の種類と設計上の注意点
代替素材として検討される代表的な環境対応樹脂には、それぞれメリットと「設計上の注意点」があります。
バイオマスプラスチック(植物由来)
サトウキビなどを原料とし、植物が成長過程で吸収したCO2と焼却時のCO2が相殺される「カーボンニュートラル」の概念に基づいた素材です。
従来のプラスチックと全く同じ化学構造を持つ「部分的バイオマス樹脂(例:バイオPET、バイオPE)」もあり、これらは「ドロップイン材」と呼ばれ、物性が変わらないため非常に扱いやすいのが特徴です。

生分解性プラスチック(特定の条件下で自然に還る)
微生物の働きによって最終的に「水と二酸化炭素」に分解されるプラスチックです。
しかし、「どこに捨てても自然に還るわけではない」点に設計上の注意が必要です。
最も普及しているPLA(ポリ乳酸)は、55℃以上の高温多湿なコンポスト(堆肥化)施設での処理が前提であり、冷たい海水中や通常の土壌ではほとんど分解されません(海洋分解性を持つのはPHAなど一部の特殊な樹脂のみです)。
また、特性上「加水分解」を起こしやすいため、水濡れが想定される製品や、防水・防湿性が求められる長期使用製品の設計には不向きであり、パッケージや農業資材など、短期間で使い切る用途に適しています。
再生プラスチック(リサイクル材)
使用済みペットボトルなどの市場回収品(ポストコンシューマ材)や、工場内端材(プレコンシューマ材)を再利用した素材です。
一般的に射出成形やブロー成形でも、ランナーやバリなど成形上でるが不要な部分は粉砕材として再利用しています。
資源循環の観点から非常に優れていますが、後述する品質のバラつきへの対策が必要です。
また、現状安価で良質なリサイクル材は樹脂成形業界での奪い合いになっており、材料供給量が安定しないデメリットもあります。
飲料業界では、ペットボトルの回収、再資源化が上手く周っており、リサイクル率が驚異の85.1%と世界的に見ても高水準となっています。
ペットボトルの再生PET材は品質としても安定していますが、飲料業界だけで周り他業界へはなかなか供給されない印象です。
4. 環境対応樹脂を導入する際の「実務的な課題」と「対策」
環境対応樹脂の導入には、現場の設計者や購買担当者が直面する実務的な壁が存在します。
コスト増加と「金型流用」の壁をどう乗り越えるか?
バイオ樹脂やリサイクル樹脂は汎用樹脂に比べて原材料コストが高くなります。
さらに見落としがちなのが「金型起工リスク」です。
PLAなどの全く新しい素材に切り替える場合、従来の樹脂(PPやABSなど)と「成形収縮率」が異なるため、既存の金型を流用すると寸法が合わず、数百万〜数千万円規模の「金型の作り直し」が発生してしまいます。
ドロップイン材の活用: バイオPEやバイオPETといった「ドロップイン型」の樹脂であれば、従来の樹脂と成形収縮率が同じため、既存の金型をそのまま流用でき、初期投資を抑えられます。材料単価は今だ高めですが。
強度低下や成形不良(品質面)の克服と「ケミカルリサイクル」
洗浄・粉砕して再溶解する一般的な「マテリアルリサイクル」では、分子量が低下(熱劣化)するため、新品(バージン材)と比べて耐熱性や強度が落ちます。
また、流動性(MFR)のバラつきによる成形不良(ショートショットなど)も起きやすくなります。
添加剤・フィラーでの補強: ガラス繊維(GF)などの無機フィラーや改質剤を添加し、低下した強度を補います。

ケミカルリサイクルの採用: 近年注目されているのが、廃プラスチックを化学的に分子レベル(モノマー)まで分解し、再度重合する「ケミカルリサイクル」です。コストは高くなりますが、バージン材と全く同等の品質を得られるため、自動車の重要保安部品や高度な防水設計が求められる精密機器でも採用が進んでいます。デメリットとしては、バージン材やマテリアルリサイクル材よりも材料が高価となります。
5. 樹脂成形品の環境対応・導入事例
すでに環境対応を推進し、市場で評価を得ている業界の事例を紹介します。
事例:日用品・パッケージ業界でのバイオマス化
大手化粧品メーカーや食品メーカーでは、ボトルの容器やパウチに「バイオマスPE」などを積極的に採用しています。
ドロップイン材を活用することで中身の保護性(バリア性)を落とさず、パッケージにバイオマスマークを表示することで消費者からの支持を集めています。
事例:自動車・家電部品でのリサイクル材活用
高い耐久性と安全性が求められる自動車・家電業界でも環境対応が進んでいます。
自動車のバンパー端材を再利用したリサイクルPPがアンダーカバー等の部品に広く採用されているほか、ケミカルリサイクル技術の進展により、今後さらに高機能部品への再生材適用が期待されています。
6. まとめ|自社製品の特性に合った環境対応から始めよう
樹脂成形品の環境対応は、企業が生き残るための「成長戦略」です。
しかし、単に「環境に良さそうな素材」を選ぶのではなく、自社製品に求められる強度、耐熱性、使用環境(水回りで使うか等)、そして既存金型との兼ね合い(収縮率)を正しく理解した上でアプローチを選択することが重要です。
まずは設計変更による薄肉化や、収縮率の変わらないドロップイン材、品質劣化のないケミカルリサイクル材の検討など、自社の要求仕様に最も適した手法から、具体的な第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。



