樹脂材料の物性表の読み方を完全解説!設計・材料選定で見るべき5つの重要項目

樹脂材料
タケノ コウ
タケノ コウ

新人設計者がまず悩むのが材料選定!
樹脂材料の物性表の見方を基本から教えるよ!

メーカーの設計部門に配属されて間もない頃、特に悩まされたのが「材料の選定」です。
材料メーカーから送られてくる樹脂材料の物性表には、聞いたこともない専門用語や数値が盛りだくさんで、どれを基準に選べばいいか戸惑っていました。

  • 「MFR」や「曲げ弾性率」など、具体的にどの数値が「成形のしやすさ」や「製品の丈夫さ」に直結するのかわからない。
  • メーカーや測定方法(JIS、ISO、ASTM)が違う場合、数値をそのまま比較しても良いのか不安。
  • よくわからないからとりあえず実績のある過去製品で採用した材料をそのまま選んでいるがいいのか?

最初の頃は本当に物性表は訳がわからなかったです。
魔法の呪文集を見ている気分でした。
「曲げ弾性」なんかは言葉からなんとなくのイメージが付きますが、「MFR」の様に略されると全く意味が分からない。
しかも、項目によっては、数値が高い方が良いのか、低い方が良いのか結構バラバラだったりしてややこしい。

そんな風に思っていました。

そんな疑問、不安を抱える昔の自分と同じ戸惑っている方に向けて、本記事では樹脂物性表を読み解くための5つの重要項目と、実務で失敗しないための注意点を樹脂設計者の視点でわかりやすく解説していきます。

樹脂材料の物性表とは?まず知っておくべき「基本のキ」

樹脂材料の物性表とは、材料メーカーから出している樹脂材料のいろいろな情報が載っている資料になります。
一つの材料メーカーにも同じ樹脂材料でいろいろなグレードの材料を持っています。

例えば、株式会社プライムポリマーさんだったら、PP材料の商標としては「プライムポリプロ」という名称で商品化しています。
同じプライムポリプロでも、「射出(剛性・透明)」「射出(耐衝撃)」「中空・押出」「フィルム」「繊維」と用途によって分かれています。
「射出(剛性・透明)」であれば、その中にも「J105G」や「J137G」など材料グレードがあります。

物性表は、それら材料グレード毎にどんな材料なのかを一覧表にまとめています。
設計者は、この物性表を見ながら、この商品にはどの樹脂材料を使おうか選定しています。

株式会社プライムポリマー「プライムポリプロ」射出(剛性・透明)物性表より

物性表を読み始める前に、大前提として知っておかなければならないルールが2つあります。

物性表に載っているのは「代表値」であって「保証値」ではない

多くの材料メーカーの出している物性表にはだいたい「代表値(Representative Value)」と記載されています。
これは、特定の試験片を特定の条件下で測定したときの結果のことを言っています。
実際の成形品では、形状や成形条件(温度・圧力)、環境によって数値は変動します。
 同じ条件下でそれぞれの材料を測定するとこうなりますよという数値です。
「この数値が100%製品で実現されるわけではない」という認識が重要です。

測定規格(JIS・ISO・ASTM)の違いに注意

樹脂の測定には、JIS(日本)、ISO(国際)、ASTM(米国)などの規格があります。
例えば、同じ「引張強度」でも、規格によって試験片の形や引っ張るスピードが異なります。
異なる規格の数値を単純に比較するのは非常に危険です。比較する際は必ず規格が揃っているか確認しましょう。
例として引っ張り強度試験を比較してみましょう。

JIS K 7161-1(ISO 527-1)ASTM D638
試験片 全長170mmm~(1A形)165mm(TypeⅠ)
試験片 平行部長さ80±2mm(1A形)57±0.5mm(TypeⅠ)
試験片 平行部幅10±0.2mm(1A形)13±0.5mm(TypeⅠ)
試験片 厚み4±0.2mm(1A形)3.2±0.4mm(TypeⅠ)
引張速度(v)50mm/minを推奨
(0.125~500mm/minの範囲)
50mm/minを推奨
(1~500mm/minの範囲)
試験環境23±2℃、湿度50±10%で
88時間以上放置
23±2℃、湿度50±5%で
40時間以上放置

ISO:ISOの内容に合わせてJISの標準化がされているため、ほぼJISと同じ

JISとISOでは標準化として内容がほぼ同じものになっています。
しかし、JISとASTMでは、使用する試験片の寸法が異なります。
ASTMの方が試験片の断面積が4%ほど広いため、同じ材料を使ってJISとASTMで比較しても数値は異なる結果となります。

 国内材料メーカーからの物性表はほぼJISでの結果が記載されていますが、海外材料メーカーの物性表にはASTMのように各国の規格で測定された数値が記載されている場合があります。
物性表にJIS以外の値しか記載がない場合は、材料メーカーへJISでの試験結果がないか確認をする必要があります。

【項目別】物性表の読み方と設計・成形への影響

数ある項目の中で、実務において特に重要な5つの項目に絞って解説します。

① 流動性を示す「MFR(メルトマスフローレイト)」

MFRは、溶けた樹脂の「流れやすさ」を示す指標です(単位:g/10min)。
試験方法としては、縦型のシリンダーへ評価したい樹脂材料を入れ、温度を上げて溶融させます。
上から荷重をかけて、シリンダ底部のダイから押し出された樹脂量を測定します。

試験時の温度と荷重は、樹脂材料毎にそれぞれに条件が違います。
そのため、同じ材質どうし(PPとPPなど)であれば数値を比較しても良いですが、違う材質(PPとPE)は、結果を比較することはできません。

MFRは10分間で押し出された樹脂の質量となりますが、他にもMVR(メルトボリュームレイト)は、10分間で押し出された樹脂の体積を表しています。
また、昔はMFRの事をMIと呼んでいた時代があります。

  • 数値が大きい: さらさら流れる。薄肉の製品や、複雑な形状の射出成形に向いています。
  • 数値が小さい: どろっとしている。粘り強いため、パイプやシートの押出成形、フィルム成形に適しています。

MFRは樹脂材料の分子量に関係が深く、MFRが大きいと分子量が小さいと相関があります。
そのため、MFRが大きい樹脂材料は、機械的強度が低い傾向があります。

➁ 強度と粘りの指標「引張降伏応力」と「引張破壊呼びひずみ」

単に「引張強度」と一括りにされがちですが、実務ではこの2つの数値を使い分けることが不可欠です(単位:MPa、%)。

  • 引張降伏応力(MPa): 樹脂を引っ張ったとき、元に戻らない変形(塑性変形)を始めるポイントです。設計上、製品が永久変形しないための上限となる非常に重要な数値です。
  • 引張破壊呼びひずみ(%): 樹脂が千切れるまでにどれくらい伸びたかを示します。この数値が大きいほど「粘り強く、柔軟」であり、衝撃に対してパリンと割れにくい傾向があります。衝撃強度と併せて見ることで、製品のタフさを判断します。

樹脂材料には降伏点のある材料(PPやHDPEなど)とない材料(軟質PVCなど)があります。
降伏点のある材料では、「引張降伏応力」が物性表に記載されています。
降伏点のある樹脂材料の引っ張り試験結果を表で表すと下図のようになります。

「引張破壊呼びひずみ」は、試験開始時から破断するまで何%伸びたかを表しています。
こちらも降伏点のある材料では「引張破壊呼びひずみ」と呼びますが、降伏点のない材料では「引張破壊ひずみ」と呼び方を区別しています。

③ 剛性の指標「曲げ弾性率」

曲げ弾性率は、製品の「たわみにくさ(コシの強さ)」を判断するための最も重要な項目です 。(単位:MPa )
試験方法は、試験片の両端を台に乗せ、中央に垂直に荷重をかけていきます。
一定のゆがみが生じる荷重の数値で比較されます。

・数値が高い: 硬くてたわみにくいことを示します 。構造を支える部品や、薄肉でもしっかりと剛性を保ちたい場合に、この数値を重視して材料を選びます 。

「硬い=強い」と勘違いされがちですが、そうではありません 。
硬すぎると、衝撃が加わったときにパリンと割れやすくなる(脆くなる)傾向があります 。
硬いことで有名なダイヤモンドもハンマーで叩くと結構簡単に粉々に砕けます。
用途に合わせて、剛性とこの後説明する衝撃強度のバランスを取ることが重要です。

④ 粘り強さを測る「衝撃強度(シャルピー / アイゾット)」

製品に衝撃が加わった際の「割れにくさ」を示す指標です 。(単位:kJ/m² )
シャルピー衝撃試験とアイゾット衝撃試験の2種類がありますが、材料試験片をハンマーで叩いて折り曲げる試験方法は同じです。
違いは試験片の固定方法が異なります。
シャルピー衝撃試験は、試験片の両端を固定し、真ん中にハンマーを当てます。
アイゾット衝撃試験は、試験片の片側のみを固定し、未固定の反対側にハンマーを当てます。
どちらかと言えば、シャルピー衝撃試験の方がメジャーな印象があります。

 ・数値が高い: 衝撃をしっかり吸収し、割れにくいことを意味します 。落としたりぶつけたりするリスクのある自動車部品や、工具の持ち手などで特に重視される項目です 。

物性表特有の表記として、物性表に「破壊せず」や「NB(Non-Breakの略)」と書かれていることがあります 。これは試験で叩いても割れなかったことを意味し、非常に高い耐衝撃性を持っている証拠になります 。

⑤ 耐熱性の目安「荷重たわみ温度」

樹脂が熱によって変形し始める温度の目安です 。(単位:℃ )
試験方法は曲げ弾性率の試験と似ています。
試験片の両端を台に乗せ、一定の荷重をかけた状態で、温度を上げていきます。
既定のゆがみ量(0.2%)に達した時の温度となります。

・樹脂にはドロドロに溶ける「融点」もありますが、実際の設計で基準にすべきなのはこの「荷重たわみ温度」です 。

なぜなら、製品は完全に溶ける温度よりも、かなり低い温度の段階でグニャッと変形が始まってしまうからです 。
実際の使用環境の温度は、この荷重たわみ温度を基準にして、十分に余裕を持って設定するようにしましょう 。

他にも樹脂材料の熱に対する指標として「ビカット軟化温度」や「連続使用温度」があります。
「ビカット軟化温度」は、試験片に対して、1mm2の押し込み圧子を押し当て、1mm押し込まれた温度を示しています。
荷重たわみ温度と同様に樹脂材料の熱による短期的な耐熱性が分かります。

対して、「連続使用温度」は長期的な耐熱性を示しています。
こちらは、試験方法がJISなどで規定されておらず、各々で試験方法や条件が異なります。
例えば、評価内容を公表している会社では、40,000時間の長期間熱をかけ、強度が元の50%以上保持する上限温度を記載しています。

実務で失敗しない!その他の重要チェックポイント

数値だけを見て「これでヨシ!」とするのは少し危険です。物性表の端にある「備考欄」や試験条件にも、設計の成否を分ける重要な情報が隠されています 。

用途別・備考欄のチェックポイント

  • 薬品や洗剤に触れる場合: 「ESCR(耐環境応力亀裂)」の項目をチェックしましょう 。薬品の影響で後からひび割れが起きないかどうかの指標になります 。
  • 食品容器・包装に使う場合: 「ポリ衛協 (JHOSPA)」や「厚生省告示第370号」、またはポジティブリスト (PL) に適合しているかを必ず確認してください 。
  • 医療用途に使う場合: 多くの一般グレードの樹脂には「医療器具への使用は推奨しない」という注意書きがあります 。医療用には、専用のメディカルグレードを選定する必要があります 。

異なるメーカーの物性表を比較する手順

コストダウンや代替品の検討で、A社とB社の材料を比較する際は、以下のステップを踏んで冷静に比較しましょう 。

  1. 試験条件を確認する: 温度、荷重、そして測定規格(JIS、ISO、ASTMなど)が同じ条件で測定されているか確認します 。前提が違えば比較できません。
  2. 試験片の作製方法を見る: その試験片は「射出成形 (Injection)」で作られたか、「圧縮成形 (Pressed)」で作られたかを確認しましょう 。一般的に、射出成形で作られた試験片の方が数値が高く出やすい傾向があります 。
  3. 比重をチェックする: 強度が同じでも、比重が重い(密度が高い)材料を選ぶと、製品1個あたりの重量が増えてしまいます 。結果的に材料コストが上がってしまうことがあるので要注意です 。

まとめ:物性表を読み解いて最適な樹脂選定を

樹脂の物性表は、正しく読み解けば「トラブルを未然に防ぐ最強の武器」になります 。 まずは基本となる以下の5点をしっかり押さえましょう 。

  • MFR で成形性を確認
  • 引張降伏応力/ひずみ で設計上の強度と粘りを確認
  • 曲げ弾性率 で剛性を確認
  • 衝撃強度 でタフさを確認
  • 荷重たわみ温度 で耐熱性を確認

どうしても判断に迷った時は、一人で抱え込まずに材料メーカーの技術窓口へ相談するのが一番の近道です 。
その際、「具体的にどんな製品で、どんな環境で使うか」をしっかり伝えると、的確なアドバイスがもらえますよ 。
あなたの設計・選定が、より確かなものになることを応援しています!

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