「設計したプラスチック部品の見積りが上がってきたけれど、この金額はどうやって計算されているのだろう?」
「上司に報告する前に、自分の中でコストの根拠をしっかり理解しておきたい」
新規プロジェクトで樹脂部品の設計や調達を任された若手担当者にとって、成形メーカーから提示される見積書は、専門用語や数字の羅列で「ブラックボックス」のように見えてしまうかもしれません。
しかし、見積もりの基礎的な仕組みさえ理解してしまえば、決して難しいものではありません。
コストの構造を知ることは、適正な価格で発注するためだけでなく、今後の設計スキルを一段階引き上げるための強力な武器になります。
全3回にわたるシリーズの第1回となる本記事では、まず見積もりを読み解くための「成形品の値段の基礎知識」を分かりやすく解説します。
樹脂成形品の見積りを構成する2大要素
見積もり書を手にしたとき、細かな項目を見る前に、まずは全体を大きく2つに分けて捉えることが重要です。
射出成形のコストは、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の足し算で成り立っています。
イニシャルコスト(金型費)の仕組み
射出成形は、溶かしたプラスチックを金属製の「型」に流し込んで形を作ります。
この型を作るための初期費用が、イニシャルコスト(金型費)です。
金型費は、単に「鋼材の塊を削る費用」ではありません。
実務上の金型価格は、以下のような要素の積み重ねで決まります。
- モールドベース代: 金型の外枠となる標準部品化されたベース部品の費用
- キャビティ・コア鋼材費: 実際に製品の形を彫り込むための鋼材費用
- 加工費: マシニングセンタ(切削)や放電加工機で鋼材を精密に削る工数
- 標準部品代: 製品を押し出すエジェクタピンなどの部品代
この構造を理解すると、「1回の成形で複数個作る(多数個取り)」設計にした場合、大きなモールドベースが必要になり、加工する面積も増えるため、金型代が直結して高くなる理由に納得できるかと思います。
ランニングコスト(製品単価)の仕組み
金型が完成したあと、実際に部品を1個作るごとに発生し続ける費用がランニングコスト(製品単価)です。
例えば、生涯で「100万個」生産する大ヒット商品であれば、数百万円の金型代も1個あたりに換算すれば数円になり、それよりも製品単価を1円安くすることが重要になります。 逆に、生涯で「1,000個」しか作らないニッチな製品であれば、製品単価よりも金型代をいかに安く抑えるかがプロジェクトの命運を分けます。
製品単価を決める「材料費」と「成形加工費」
製品単価(ランニングコスト)は、主に「材料費」「成形加工費」「管理費・利益」の3つで構成されています。
ここでは、原価の大部分を占める材料費と加工費の実務的な計算ロジックを見ていきましょう。
樹脂の材料費はどう計算される?(比重と粉砕材)
材料費は、単に「製品の重さ × 樹脂の単価」という単純な計算ではありません。
設計者が3DCADで算出した製品の「体積」に、使用する樹脂ごとの「比重」を掛けて重量を弾き出します。
さらに、溶けた樹脂の通り道である「ランナー」や「スプルー」部分も材料を消費するため、これも加味する必要があります。
実務上の材料費は、以下のような考え方で計算されます。
材料費 = ((製品体積 × 比重) + ランナー負担重量) × 樹脂のキロ単価 × ロス率
- ランナー負担重量: 複数個取りの場合、1つのランナーから樹脂が分岐するため、1個あたりのランナー負担重量は個数に合わせて割って計算されます。1個取りの場合はランナー重量そのままの数字となります。
- 粉砕材(リペレット)の利用: コールドランナーの場合、不要になったランナーを粉砕し、新しい材料(バージン材)に10〜30%程度混ぜて再利用することが一般的です。これにより、正味の材料費を抑えることができます。
- 材料ロス率:成形立ち上げや段取り替え時の材料ロスや、連続成形時の不良分など、成形では100%の材料を成形品に使うことはできない。そのため数%のロス率を計算の中に入れておく必要がある。
成形加工費との成形機のチャージレートとサイクルタイムの関係
成形加工費とは、成形機を動かすための製造コストです。見積りにおける考え方は以下の通りです。
成形加工費 = チャージレート × サイクルタイム × チョコ停率
- チャージレート(時間あたりの設備費用): これは業者の単なる言い値ではありません。「成形機本体の減価償却費」「機械を置く建屋・土地の費用」「モーターやヒーターを動かす電力費」「作業員の人件費」から算出されます。
機械のサイズ(トン数)が大きくなるほど、これら全ての経費が上がるため、チャージレートは高くなります。 - サイクルタイム(1個作る時間): 金型を閉じて樹脂を流し込み、冷え固まってから取り出すまでの時間です。
- チョコ停率:成形時にチョコっと成形が止まる時間の事をいいます。センサー異常や成形不良などで生産を少しの間止めることがあります。成形加工費にはその時間も見込んでおきます。
つまり、「小さな機械で」「素早く(短い時間で)作れる」部品ほど、成形加工費は安くなります。
逆に、肉厚で冷えるのに時間がかかる部品は、それだけ成形機を占有するため成形加工費が高くついてしまいます。
見積もり書をもらったら最初に見るべきポイント
基礎知識を押さえたところで、実際に成形メーカーから見積もり書を受け取った際、金額の前に必ず確認すべきポイントをお伝えします。
前提条件(ロット数や取り数)は合致しているか
見積もりのトラブルで最も多いのが、「前提条件のズレ」です。
成形メーカー側がどのような条件を想定して計算したのか、以下の項目が自社の希望と合致しているかを必ずチェックしましょう。
- 生産ロット数: 月に何個作る想定か。
- 金型の取り数: 1個取りで見積もられているか、2個取り・4個取りで見積もられているか。
- 想定成形機サイズ: 何トンの成形機で打つ想定になっているか。
- 材料の歩留まり: 粉砕材の利用が考慮されているか。
これらが見積もり書に明記されていない場合は、ブラックボックス化の第一歩です。
「どのような条件で計算しましたか?」と成形メーカーに確認する癖をつけましょう。



