第2回 その見積もり、適正価格?樹脂成形品のコスト相場を見抜く方法

成形品の見積り

「成形メーカーから見積もりが届いたけれど、この金額って妥当なの?」

「相見積もりを取ったらA社とB社で全然違う金額が出てきて、どう比較すればいいかわからない……」

若手の設計担当者や購買担当者が必ずぶつかるのが、「見積もり金額の妥当性評価」の壁です。
第1回では、射出成形の見積もりが「イニシャルコスト(金型費用)」と「ランニングコスト(製品単価)」で構成されている基本ロジックを解説しました。

今回は一歩踏み込んで、手元にある見積もり書が「適正な相場に基づいているか」「無駄に高い構成になっていないか」を見抜くための、プロの実務的なチェックポイントを解説します。

金型代(イニシャルコスト)の妥当性を見極める

見積もりの中で最も高額になりやすく、かつメーカーによって差が出やすいのが「金型代」です。金型代の妥当性は、以下の3つの観点から精査します。

取り数が増えても金型代は「倍」にはならない

金型代のベースとなるのは「金型の大きさ(鋼材のボリューム)」と「彫り込みにかかる加工時間」です。ここで必ずチェックすべきは「金型の取り数」です。

よくある誤解として「4個取りの金型は、1個取りの4倍の価格になる」と思われがちですが、実際はそんなことありません。
金型の外枠となる「モールドベース」や樹脂の主要な通り道は共有されるため、1個取りから4個取りになっても、金型代の上がり幅は1.5倍〜2倍程度に収まるのが相場です。
もし「4個取りだから金型代も4倍」に近い金額が提示されていたら、内訳の詳細をメーカーに確認する必要があります。

「アンダーカット」が金型費用を跳ね上げる理由

図面を客観的に見直してみてください。
金型が単純にパカッと開閉するだけでは抜けない形状(横穴や内側のツメなど)、いわゆる「アンダーカット」はありませんか?

アンダーカットを成形するには、金型内に「スライドコア」や「傾斜ピン」といった複雑な可動機構を組み込む必要があります。
これらが1箇所増えるごとに、金型の設計工数と超精密な機械加工の手間が増加し、金型代は数十万円単位で跳ね上がります。
「形状の割に金型代が異様に高いな」と感じたら、アンダーカット処理の費用が重く乗っている可能性を疑いましょう。

生産数に合致した「金型鋼材」が選ばれているか

金型の耐久寿命は、使われている「鋼材の種類」によって決まり、これが価格に直結します。
手元の見積もりの「金型仕様欄」に、生産計画とズレた高価な鋼材が指定されていないかチェックしてください。

  • 数千個程度の試作・小ロット: 削りやすく圧倒的に安価な「アルミ型」
  • 数万〜30万個程度の一般的な量産: 最も普及している標準的な「プリハードン鋼」
  • 50万個以上の大ロット、またはガラス繊維入り樹脂: 熱処理で極限まで硬くした高価な「焼き入れ鋼」

実務において、一般的な量産品であれば「プリハードン鋼(NAK80など)」で十分に長寿命な型が作れます。
生涯で数万個しか作らない製品なのに、高価で加工費もかかる「焼き入れ鋼」で見積もられていたらオーバースペックです。メーカーに鋼材のダウングレードを打診する余地があります。

また、金型の表面処理として、「窒化処理」や「コーティング」などを行う場合も金型費用が変わってくるので、よく金型メーカーに確認を行う必要がある。

製品単価(量産費用)の妥当性をチェックする

続いて、製品1個あたりの単価が適正かどうかを確認するポイントです。

成形機のサイズ(トン数)を決める「投影面積」と「樹脂特性」

加工費は「チャージレート(機械の費用)× サイクルタイム」で決まりますが、ここで見るべきは「本当に適切なサイズの成形機(トン数)が選ばれているか」です。

成形機のサイズは、製品を上から見たときの「投影面積」に比例して大きくなりますが、実は「使用する樹脂の種類(流動性)」も大きく関係します。
たとえば、同じサイズの部品であっても、流れやすいポリエチレン(PE)なら100トンの成形機で打てるものが、流れにくく強い圧力を要するポリカーボネート(PC)や、極端に壁が薄い形状(薄肉品)の場合は、200トンといった大型の成形機が必要になります。
製品のサイズだけでなく、材料の特性や肉厚を考慮した上で、妥当なトン数の機械が選ばれているかを見極めましょう。

小ロット生産時に単価を上げる「段取り費用」の罠

単価の妥当性を見るうえで見落としがちなのが「段取り費用」です。

成形を行う前には、重い金型をクレーンで機械に取り付け、樹脂を乾燥させてセッティングする準備作業(段取り替え)が必要です。
この作業中、成形機は製品を生み出さないため、メーカーにとっては固定のコスト(時間・人件費)がかかっています。
1回に数万個作る場合は段取り費用の影響は薄まりますが、「年に1回、300個だけスポットで生産する」といった小ロットの場合、数万円の段取り費用が300個に重くのしかかり、製品単価を急激に押し上げます。

見積もり書を見る際は、単に単価を見るだけでなく、その単価が「1回あたり何個発注したときの発注割当(ロット条件)なのか」を必ず確認してください。

複数社の相見積もりを比較する際の注意点

複数社から相見積もりを取った際、単に「一番トータル金額が安いA社にしよう」と決めるのは非常に危険です。

単なる「安さ」だけで判断しない総合的な視点

金額の差には、必ず裏の理由があります。
以下の隠れたコストやサービスが含まれているか、細部を比較しましょう。

  • 金型のメンテナンス費用: 金型は使えば摩耗します。B社は金型代が少し高いけれど、量産中の定期メンテナンスや、万が一の金型破損時の修理費用を無償で負担してくれる条件(型保全コミ)になっていることがあります。
  • 試作(トライ)の回数: 金型が完成するまで(育成期間)に寸法調整を行う費用が、最初から見積もりに含まれているか。安いA社は「試作は1回のみ、2回目以降の修正は別途実費」となっているかもしれません。

まとめ

見積もり金額の妥当性は、以下の3点に注目してチェックしましょう。

  1. 金型代: 「4個取りでも1個取りの4倍にはならない(1.5〜2倍が相場)」「生産数に見合った正しい鋼材か」を確認する。
  2. 製品単価: 「樹脂の特性(流動性)まで加味した適切な成形機サイズか」「小ロットによる段取り費用の罠に陥っていないか」を確認する。
  3. 相見積もり: 目先の安さだけでなく、メンテナンスや育成条件などの見えない条件まで比較する。

見積もりの数字の根拠が読めるようになれば、「今回の形状とABS樹脂なら、もう1サイズ小さな成形機でチャージレートを下げられませんか?」と、成形メーカーと対等に、そして論理的に会話ができるようになります。

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